海外FXテクニカル分析

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FXのATRとは、相場のボラティリティを分析できるテクニカル指標です。エントリータイミングを取ることには不向きなATRですが、「値動きの大きさ」から損切りや利確ポイントを判断したり、ロットサイズを調整したりなど、FX取引を助けることができます。
ボラティリティに注目したトレード手法は海外では一般的ですが、日本では馴染みが少ないといわれています。ATRはFXのボラティリティを可視化するテクニカル指標の1つですが、興味があっても使い方が分からない、というトレーダーは多いかも知れません。
本記事では、ATRの基本的な見方や分析方法、そしてATRを使ったFXトレードで実践的な手法などを分かりやすく解説します。
FXで使うATRとは
ATRは、MT4 / MT5に標準搭載されており、誰でも気軽に利用できるインジケーターですが、使い方がよく分からない、という方も多いかも知れません。
まずは、ATRの概要から確認していきましょう。
ATRはボラティリティの平均値を表す
ATRは、FX通貨ペアなどのボラティリティ(価格変動の大きさ)の平均的な推移を、グラフのようにして表すテクニカル指標です。
「テクニカル指標の父」と呼ばれるJ.W. ワイルダー氏によって開発された指標であり、同氏が作ったテクニカル指標には他に、RSI・ADX・Pivot・パラボリックSARなどがあります。
以下は、ドル円の日足チャートにATRを表示させたものです。
ATRは、チャートの下にあるサブウィンドウに表示されます。
上記チャート画像を見て分かるように、ATRはボラティリティの増減を示すものであり、値動きの方向は示しません。価格の上下やトレンドとは関係なく、ATRはボラティリティが増えれば上昇し、減れば下落します。
FXでATRを使用するメリット
ATRを使用してボラティリティを把握することのメリットは、主に以下の通りです。
ATRを使用するメリット
ATRは、相場のボラティリティを客観的に可視化することで、FXトレードにおいて重要な「損切り・利確・ロット調整・戦略選択」などの判断をサポートできるツールです。
FXや各種CFDなど、ボラティリティの変動の大きい相場で取引する際は、ATRを活用することで、損失や相場環境に対するリスク管理を行いながらFXトレードに臨めるでしょう。
ATRを使ったトレード手法について詳しくは、本記事「ATRを活用したFXトレード手法」の章をご覧下さい。
ATRの計算方法
ATRは「Average True Range」の略であり、日本語では「真の値幅の平均」という意味になります。
なぜ「真の値幅」なのかというと、ATRでは「高値と安値の差」のように、単純な値幅の計測によってボラティリティを求めていないためです。
ATRの計算は、基本的に次の2ステップで行われます。
ATRの計算方法(日足の場合)
- その日の最大の値幅を求める
- 設定期間の平均値を求める
例えば日足の場合、「当日高値 - 前日終値」「当日高値 - 当日安値」「前日終値 - 当日安値」のうち、最大の値幅をその日1日の値幅(真の値幅)とします。
続いて、指定した期間内での指数平滑移動平均を求めます。ATRの期間設定は「14」が使用されることが多いです。
2つの計算によって、ボラティリティの平均的な流れがグラフで確認できます。
ATRを開発したワイルダー氏は「ATRの期間設定は14が最も適している(日足チャート)」と記しています。開発者が推奨していることもあり、世界中のトレーダーが最も利用している期間設定は「14」です。ワイルダー氏はATRの他にもRSI、ADXなどの有名インディケータを開発しましたが、RSIもADXも推奨されている期間設定は「14」とされています。
ATRの基本的な見方と環境認識方法
ここからは、ATRの基本的な見方を解説します。またATRを使用した分析方法の例についても、合わせて見ていきましょう。
ATR数値の見方
以下は、ATRを表示したドル円の日足チャートです。一番新しいローソク足のATRから、数値の見方を確認しましょう。
各通貨ペアについて、それぞれの数値の意味は以下の通りです。
ATR数値の意味(期間設定が14の場合)
通貨ペア | ATR数値 | 数値の意味 |
USDJPY | 1.416 | 過去のローソク足14本の平均ボラティリティが141.6pips |
EURUSD | 0.00916 | 過去のローソク足14本の平均ボラティリティが91.6pips |
USDJPY | |
ATR数値 | 1.416 |
数値の意味 | 過去のローソク足14本の 平均ボラティリティが 141.6pips |
EURUSD | |
ATR数値 | 0.00916 |
数値の意味 | 過去のローソク足14本の 平均ボラティリティが 91.6pips |
ドル円とユーロドルでATR数値の桁数が異なるのは、ATRの計算がpipsではなく価格で行われているためです。価格の数字が大きいドル円などと、数字が小さいユーロドルなどでは、ATR数値の規模感が大きく異なる点にご注意下さい。
過去14本の値動きの平均ボラティリティによって、現在のローソク足がどれぐらいの値幅になるのかある程度想定できます。想定される値幅が分かれば、それを根拠として利確幅や損切り幅を設定できるでしょう。
ATRによる基本的な環境認識方法
ボラティリティの平均のみを表すというATRの性質は、値動きだけでは分かりにくい相場環境の把握に役立つ場合があります。例えば、「トレンドは進んでいてもボラティリティは次第に減少している」などの相場状況は、ATRを使用することで簡単に認識できるでしょう。
ATRと値動きの基本的な関係は以下の通りです。
ATRと値動きの基本的な関係
上昇 |
強いトレンド相場、または 一時的に強い値動きの可能性 |
横ばい・下降 |
緩やかなトレンド相場、レンジ相場、 トレンド中の押し目・戻り目の可能性 |
順張りトレーダーであれば、ATRの数値が上昇している場面では、ボラティリティの高まりにより大きなトレンドが発生している可能性があるため、狙い目になります。
逆張りトレーダーであれば、ATRの数値が下降している場面では、レンジ相場である可能性があり、トレードしやすい環境といえるでしょう。
例えば、上位足のATRを分析して、相場環境に合った戦略を下位足で実施する、などの方法が考えられます。
市場が過熱している場合
極端にATRの数値が高くなっている場合は、値動きが激しく損切り幅も広がる傾向があるります。また、レートが急上昇した後は急下落する場合もあるため、注意が必要です。
ATRを活用したFXトレード手法
ここからは、ATRを活用したFXトレード手法として、決済ポイントの決定方法や、ロット数の調整方法を解説していきます。
ATRで損切り・利確ポイントを決める
ATRを活用することで、「平均ボラティリティを根拠とした損切り幅、利確幅」を設定できます。
例として、日足を使用したスイングトレードの損益設定を考えてみましょう。エントリー時点の平均ボラティリティが63pipsと判断できる場合、ローソク足の始値が付いた瞬間にエントリーしたら、そのローソク足では63pips程度の変動が発生し得ると予想できます。
損切りと利確は、ATRから予測されるボラティリティに基づいて行います。この場合は、1日の平均ボラティリティである63pips以上の逆行があれば、エントリーポイントを誤った可能性が高いと判断し損切りします。また利確目標としては、今回はATRの2倍である126pipsと設定します。トレンドが継続すれば、数日のうちに到達する可能性が十分にあると予想できるでしょう。
ATRの何倍を損切り幅・利確幅にするかについてですが、おすすめは1~3倍です。リスク・リワード比率を意識してトレードすると、勝率が低くても全体的な利益を出しやすくなります。
ATRバンドを使用してみよう
ATRには、「ATRバンド」または「ATRチャネル」などと呼ばれるカスタムインジケーターが存在します。ATRバンドでは、チャート上にATRに基づくグラフを表示できるため、視覚的に分かりやすく、使いやすいメリットがあります。
海外FX業者の FXON(エフエックスオン)が提供するMetaTraderには、「マルチタイムフレームATRバンドインジケータ」というATRバンドが標準搭載されています。手間のかかるカスタムインジケーターのインストール作業は不要で、ATRバンドをご利用頂けます。
2025年にサービスを開始したFXONは、AI技術による透明性の高い取引環境と、低スプレッドに魅力のある海外FX業者です。
ATRバンドにレートがタッチするタイミングなどで、利確やエントリーのタイミングを取ることができます。信頼性の高い海外FX業者で、ATRバンドを活用したFXトレードを行いたい方は、FXONのご利用がおすすめです。
ATRでロット数を調整する
ATRによる手法として、ボラティリティに応じたロット設定があります。
例えば、ドル円とゴールドでは3〜4倍のボラティリティの違いがあるため、ドル円の感覚でゴールドのロット設定をしてしまうと、リスクが高すぎることになります。ボラティリティは銘柄ごと、そして時間帯や時期ごとにも異なるため、ATRを活用することで適切なリスク管理が可能でしょう。
今回は、ATRを使用した2種類のロット設定方法を解説します。
ATRでロット設定のフィルターを作る方法
初心者にも行いやすいロット方法は、ロット設定の基準値を決めた上で、ATRを参考にボラティリティに応じたフィルターを作るやり方です。
例えば、平均的な損切り幅が20〜30pipsで、10万円の資金に対して0.1ロット(1万通貨)で取引しているトレーダーでは、以下のようなロット数のフィルターが考えられるでしょう。
ATRによるロット設定フィルターの例
ATRの数値(ボラティリティ) | ロット設定 |
19pips以下 | 0.15ロット |
20〜30pips | 0.1ロット |
31pips以上 | 0.05ロット |
こうしたフィルターを作ることで、ボラティリティが大きい相場で取引する際のリスクを抑えられます。
具体的なロット設定はトレードスタイル等によっても異なるため、ご自身にあったフィルターを研究してみて下さい。
リスク管理を重視したロット設定方法
続いて、許容損失額とボラティリティを考慮しながら、リスクを一定に保つロット計算方法を見ていきます。
許容損失額とは、1回のトレードで失うことを許容できる金額です。一般には「2%ルール」が有名で、もし資金が10万円のときに2%ルールを適用した場合、許容損失額は2,000円になります。
計算には以下の式を使用します。決済通貨の違いによって計算方法が若干異なるため、今回は対JPY通貨ペア用と、対USD通貨ペア用の2種類についてご紹介します。
対JPY通貨ペアのロット計算方法(USDJPY・EURJPYなど)
ロット数 = 許容損失額(円) ÷ (1,000 × ATR数値)
対USD通貨ペアのロット計算方法(EURUSD・GBPUSDなど)
ロット数 = 許容損失額(円) ÷ (10 × ドル円レート × ATR数値)
例えば、許容損失額が2,000円でドル円を取引し、ATR数値が30pipsだった場合は、以下のように計算できます。
2,000円 ÷ (1,000 × 30pips) = 0.06(ロット)
少々手間がかかりますが、許容損失額とボラティリティを考慮してロット計算することで、予想外の損失を防ぎ、リスク管理しながらFX取引を行うことが可能です。
ATRをMT4 / MT5で設定する方法
ATRはMT4 / MT5に標準搭載されており、チャートへの設定は難しくありません。以下の手順でATRを表示させることができます。
上部メニューの「表示」から「ナビゲータ」を選択します
「ナビゲータ」ウィンドウが開いたら、「Examples」にある「ATR」を、ATRを表示させたいチャートへドラッグ&ドロップします。
ドラッグ&ドロップをしたらパラメーター設定の画面が開きますが、ATRはデフォルトのままでも使用できます。「OK」を選択して設定を完了させましょう。
設定を完了すると、チャート上にATRを表示できます。
ATRはFX取引のリスク管理に役立つ
ATRは、ボラティリティを考慮した損益ポイントやポジション量の調節など、FX取引に必要なリスク管理に役立てることができます。
今回はATRを使用したいくつかの手法を解説しましたが、エントリータイミングは別のテクニカル指標を使う必要があります。特にボラティリティが出ている相場では、普段使用しているトレード手法とATRを組み合わせることで、適切なロット設定をはじめとしたリスク管理を行いやすくなるでしょう。
編集部の
コメント
ボラティリティを基準とした損切り設定のメリットは、値動きのノイズの影響を少なくできる点にあります。ATR自体は全ての時間軸で使用できるテクニカル指標ですが、損切り設定で考慮する場合は、スイングトレードなら日足〜4時間足が妥当でしょう。その他のトレードスタイルでは、デイトレードなら4時間足〜1時間足、スキャルピングなら1時間足〜15分足程度での使用がおすすめです。